Tropical Night 〜3〜

「遅かったなぁ。道混んでたか?」

ニヤニヤしながら、ますます陽に焼けた藤本さんが聞いた。実はあれからまたバスルームでしちゃったんだよなぁ。なんて言い訳すればいいんだろ?それになんか勘ぐられてるみたい。当たり前か。電話したら『してるところ。入れたばっかり。』なんて言われれば。僕は焦って顔が真っ赤になってしまった。

「別に。メニューくれよ。」

青山さんは何もなかったようにしれっとしている。そうか、こうやってかわすのが大人なんだな。

「どうぞ。」

藤本さんの隣にいた青年、藤本さんの彼がメニューを差し出してくれた。やっぱりいつも藤本さんのお店の入り口で迎え入れてくれる店員さんだよなぁ。僕がじっと顔を見ていると、それに気づきニコッといつもの笑顔で笑いかけてくれた。

「ユウキくん、僕、飯倉京介。名前知らなかったろ?」
「・・・はい。ごめんなさい。」
「いや、いいよ。まさか僕がこの人と付き合ってるなんて思わなかった?」
「ええ。そんなそぶり見せなかったし。」
「店ではね。誰も知らないはずだから、君も秘密にしてね。」
「もちろんです。」

今までこんなに近くで見たことがなかった。よく見ると素敵な人だ。さわやかで、甘い顔立ち。でも声は低い。柔らかそうな髪。僕の好きなあの韓国の俳優のような・・・。

「あの、飯倉さんはおいくつですか?」
「京介でいいよ。僕は27だけど。」
「27歳・・・・ですか。」

僕と10歳も違うんだ。大人なんだなぁ。こんな男になれたらいいなぁ。

「ユウキ、何にする?」

彼の声で一気に現実の世界に引き戻された。・・・やだな、見とれてたと思われたかな。僕は慌ててメニューに目を移した。英語で書いてあってよくわからない。写真だけで選ぶしかないかなぁ。

「ロブスターとリブのセットがいいよ。あと、つけあわせをこの中から選んで・・・・」
「京介!」

青山さんの声にビクッとした。

「あ・・・お前も休暇中なんだから・・・世話焼かなくていいんだよ。」
「・・・・失礼。」

京介さんは僕に笑いかけるとシートにもたれかかった。藤本さんはニヤニヤして見ている。僕はどうすればいいのだろう?それでなくても冬の日本と違って暑いのに、ますます汗が吹き出てくる。

「適当に頼んでみんなで食えばいいじゃないか。」

藤本さんの言葉に救われた。藤本さんがいくつか注文してくれて、僕たちは料理が来るのを待った。なんとなく気まずい雰囲気。藤本さんが口火を切った。

「ユウキ君、ヤキモチ焼きの彼氏を持った感想は?」
「えっ?ヤキモチ・・・焼かないですよ。青山さんは。」
「ふーん、そう。でも・・・・」
「でもなんだよ!」

なんかさっきから彼の機嫌が悪いな-。ホテルの部屋ではあんなにご機嫌だったのに。一体どうしたんだろう?

「お前とは話してないだろ。でもユウキ君・・・・言ってもいいかな?」
「はい。なんでしょう?」
「あのね・・・・キスマーク・・・・見えてるよ。」

キスマーク!僕は手で首筋を隠した。Tシャツの襟も引き上げた。けど、隠れたかな?見られたんだ。恥ずかしい。どうしよう。顔を上げられない。

「キスマークは所有印だろ?青山が『俺のー』って『誰も触るなー』って言ってるようなものだよ。」
「それに『さっきまでHしてましたー』ってね。」

京介さんまで・・・でも、キスマークってそう言う意味だったのか?そんなの聞いたことない。知らなかった。どうしよう。こんな人前で。周りを見渡すと、空いているテーブルがないほど客が入って賑っている。日本人も多い。どうしよう。

「そうだよ。」

え?

「こいつ、俺のだから。」

青山さんは僕の肩に手を回し、僕を引き寄せた。えー!?こんな人前で。

「だから触るなよ。」

僕は首から手を離した。彼は僕の肩から手を離すと、タバコを吸いながら言った。

「こいつは何でも本気にするから、あんまりからかうなよ。」

藤本さんと京介さんは顔を見合わせ、大笑いしている。だが、それも周囲の雑音とともに僕の耳には入らなかった。僕はテーブルの下で彼の手の上に手を重ねた。彼はタバコを吸いながら、二人には気づかれないように僕の手を握り返した。




「アー涼しい。やっぱり冷房はいいねー。」
「暑かったなァ。」

ABCストアでいろいろ買い物してからホテルに戻り、部屋の入り口で藤本さんたちと別れた。部屋が隣同士だったんだな。

「先にお風呂に入っていいよ。僕荷物の整理する。」
「荷物なんていいよ。チェックアウト遅いし。明日で。」
「そうだったね・・・」

スーツケースの前に座り込んでいる僕の隣に屈むと、僕の髪を触る。

「帰りたくない?」
「・・・・うん。」
「そっか。また来よう?今度はもっと長く。な?」
「うん!」
「じゃあ、風呂入るから来いよ。」

彼はバスルームへ向かった。そうか、明日帰るんだったな。夕方には出るんだっけ?よし!明日は早起きしよう。最終日を満喫するんだ。朝起きたらビーチを散歩して、昼間は出来るだけあちこち行って。何かパンフレットみたいのないのかな。先に調べておけたらいいのだけど。何回も来てるからって、青山さんはガイドブック買わないんだもの。旅行会社がくれたミニガイドも捨てちゃうし。

「青山ぁ〜、明日って・・・」
「うわぁぁぁぁーっ!」

なぜ藤本さんがここに!?いつの間に入り込んだんだ?

「どうしたッ!?」

全裸の青山さんが飛んできた。体が濡れている。もうシャワーを浴びてたんだ。

「どうしたって・・・明日の朝何時にでるか聞きにきたんだけど。」

見ると部屋の奥にドアがあり、そこが開いている。

「ユウキ、大丈夫か?隣と繋がってるんだよ。言うの忘れてた。ごめんな。」
「驚いただけ・・・」

まだドキドキしてる。入り口が違うのに、部屋の中で繋がってるなんて、そんな部屋あるんだな。

「そんなの電話しろよ。いちいち入ってくるな。早く出ていけよ。」
「冷たいなぁ。」

帰ろうとして、藤本さんは足を止めた。ポケットに手を入れると戻ってきた。。

「そうそう、ユウキ君にコレあげるね。」
「はぁ、どうも。」
「青山がいないときに見て。」

小さな紙袋に入ったものを渡しながらそっと耳打ちされたが、おそらく彼に聞こえてる。だって背中に痛いほどの視線が刺さってるもの。

「青山、明日10時な。エッチしすぎて寝坊するなよ。」
「お前こそ!」

藤本さんは入ってきたドアから隣の部屋に帰った。青山さんはドスドスとドアに歩み寄り、鍵をかけた。振り返り、怖い顔でこちらを見ている。彼の言いたいことはわかってる。

「はい。」

僕は藤本さんからもらったものを差し出した。一体何が入っているんだろう?プラスチックのケースっぽいけど。紙袋から出たものを見て、青山さんはプッと噴出した。

「なに?おかしいもの?」
「見たい?ほらよ。」

それはトランプだった。男性の写真つきの。なんだ。びっくりした。何かやばいものかと思った。

「開けてみろよ。」

僕はフィルムをはがし、蓋を開けた。

「・・・!勃ってる!」

裸の男性がペニスを勃たせた写真が使われたトランプだった。どれも大きくて立派だ。

「シャワー浴びてるぞ。早く来いよ。」
「うん・・・・」

カードから目が離せない。めくるたびに驚く。スゴイ!

「ホラ!そんなの後でいいだろ。それに見慣れてるだろ?コレ。」

彼がペニスを僕の目の前に突き出す。もう、しょうがないな。立ち上がって彼と一緒にバスルームへ向かった。


風呂から上がると、二人でベッドに横たわりながらテレビを見た。外国なのにNHKが映るんだ。それも初めて知った。ニュースばかりでつまらない。それに、僕はさっきのカードが気になってしょうがなかった。だけど、彼の手前取りにいくことができない。

僕ははっとした。彼の腕枕の中でそんなことを考えているなんて。いつの間にか愛されることに慣れ、傲慢になっているような気がした。以前の僕なら彼に腕枕をされたら、感動で泣いていたかもしれない。なのに今は他の事を考えている。僕は最低だ。僕は彼の首に手を回して抱きついた。

「どうした?」

彼はやさしい声で聞いてくれる。写真とはいえ、他の男性が気になるなんて言えない。

「僕、さっきのトランプ返してくる。」
「別に返さなくても。そんなの放っておけよ。」
「だめだよ。やっぱり、返してくるよ。」

僕はベッドから出るとバスローブを着て、トランプを持ち、例のドアへ向かった。鍵を開けてドアを開けると、もう一枚ドアがあった。そのドアをそっと押し開けると、京介さんの声が聞こえた。ドアの隙間から覗くと、ベッドの上で四つんばいになった京介さんに、藤本さんが激しく腰を打ち付けていた。

他人のSEXを見たのは初めてだ。この前のビデオもすごかったけど、実際に目の当たりにする男性同士のSEXはなんていやらしいのだろう。快感を求め合うだけの肉体の結合。獣のようだ。陽に焼けた藤本さんの茶色い体が、細身で色白の京介さんを攻めている。京介さんは『もっと、もっと』と卑猥な声を上げている。二人の体は汗でいやらしく光っている。

僕は見ていられなくなり、後ずさろうとした。が、足が動かない。藤本さんは京介さんと繋がったまま体の向きを変え、横になりながら京介さんの片足を持ち上げ、大きく広げさせた。ちょうど僕の正面に京介さんの体が開かれる。真っ赤になった自らのペニスをきつく扱き、既に精液が飛び散った自らの腹に、まだなお先から溢れる透明の液を重ねている。

僕の視線は京介さんの胸元に集中した。乳首にピアス。ときどきピアスを引っ張られると、京介さんは一際高い嬌声を上げる。涎を垂らし、涙を流しながら喘ぐ姿。涙を流しながら藤本さんをねだる姿。あんなにさわやかそうな男性だったのに、あんなにいやらしい人だったなんて。僕も抱かれているときはあんな風になるのだろうか?

肩を引かれてハッと我に返った。青山さんが『しっ』と口に人差し指をつけ、ドアをそっと閉めた。僕の手を引き部屋に連れ戻される。

「どうした?」

彼が顔を覗き込む。どうもしない。藤本さんたちのSEXを見たから興奮しているだけだ。なんてことはない。誰でもやっていることで・・・

「ユウキ、ちょっと座れよ。」

手の中のトランプを彼がテーブルの上に置き、ベッドに座らされた。

「どうした?」
「別に・・・・どうも・・・ちょっとびっくりしただけ。」
「・・・・・ちょっとじゃないだろ?」

この人にはなぜいつもこう鋭いんだろう。隠し事ができないな。

「京介さんが・・・・・」
「うん、京介が?」
「なんだか・・・いやらしくて・・・」
「惚れたか?」
「違う!なんだか・・・・二人が気持ち悪いというか・・・藤本さんが・・・汚らしいように思えて・・・」
「えっ!?」

そうだよね。こんなこと言ったら驚くよね。こんな風に思うの差別みたいだし、僕だって抱かれているときはどうなっているのか。自分のそういう姿を客観的に見たことないから、もしかしたら京介さんよりもっと乱れているかもしれないし。青山さんはそんな僕の姿をいつも見ているわけで。それに、藤本さんとしたときの僕も見ているわけで。

「それで?」
「それで・・・・・っ・・・・」

あーどうしよう。また涙が・・・どうして僕はこう涙腺が弱いんだ。都合が悪くなると泣いているみたいで、卑怯なんだよ。なんで冷静に話ができないんだ。あっ、零れてきた。もう、涙腺を捨てちゃいたい。

「俺のことも汚いと思ったのか?」

そんなばかな!顔を上げると、青山さんのとても悲しそうが顔があった。そんなことがあるはずがない。溢れる涙を拭いながら、とても低い声で言った。

「俺も男を抱いてる・・・そんな俺は気持ち悪いか?」

違う!違う!違う!!首を大きく左右に振る。青山さんは汚くない!青山さんは違う!

「僕も抱かれてる・・・けどっ・・・あんな二人とは違う!」
「あんな?・・・・なら、なぜお前は俺に抱かれる?」

なぜか?考えたことなんてない。ただ好きだから。彼に愛されてると実感したいし、彼に愛してると伝えたい。彼を気持ちよくしてあげたい。SEXしなくても、肌が触れ合うだけでもいい。手を繋ぐだけでも幸せを感じる。

「青山さんのことが好きだから。」
「好きだと抱かれるのか?」
「愛されてると実感したいから・・・違う・・・理由なんてないよ。僕はっ・・・」
「あいつらだって同じだろ?」
「・・・・・・」
「そりゃあ藤本はビジュアル的にも美しくないし、ちょっときもいけどな。でも二人は本当に愛し合ってる。好きなら体を重ねて確かめ合いたいってのは本能だろ?」
「そうだけど・・・」
「それに京介も、本当に信用してる相手の前だからあんな姿見せられるんじゃないの?」
「信用?」
「だって、お前誰にでもしりの穴見せられる?学校の友達に見せないだろ?」
「見せるわけないよ!・・・・青山さんだけだよ。」
「じゃあ達くところは?あんなエロイ顔誰かに見せる?精液見せる?」
「見せない!」
「じゃあなんで俺には見せる?」

だって青山さんには・・・僕の全てを知って欲しいし。いや、違う。やっぱり理由なんてない。あるとすれば『青山さんだから』だ。他に理由なんてない。

「京介があんなに乱れるのは藤本の前だけだ。藤本はもっと京介を乱れさせたいと思ってる。気持ちいい証拠だもんな。」
「・・・・・」
「相手を気持ちよくさせてやりたいって、誰でも思うだろ?」
「・・・・・・そう・・・だね・・」
「俺もお前が乱れれば乱れるほどうれしいよ。」
「僕が?」
「当たり前だろ?俺が感じさせてるって実感できるし。まさか誰とでも感じるのか?」
「僕は・・」

彼が僕の唇をふさいだ。彼のキスが次第に僕の力を抜いていく。

「お前が藤本のこと気にしてるみたいだったから、京介の存在を知れば安心するかと思ったけど逆効果か?」
「気づいてたの?」
「もちろん。肉体関係あると思ってただろ?」
「・・・うん・・・・絶対そんなことはないって思ってるけど、ときどきもしかしたらって。」
「ないよ。なんでそう思った?」
「・・・・まえに3人でしたから・・・」

彼の顔色が変わった。

「以前は、しょっちゅうあんなことしてた。男引っ掛けては藤本と二人で。ユウキのことだって・・・でも!あれが最後だ。あれ以来してない。それに、あのときのことは本当に後悔してる。」

前はしてたんだ・・・傷つかないといったらうそになる。けど、過去を責めても意味がない。僕だって青山さんと出会わなければどうなっていたかわからない。

「ホントに?本当に後悔してる?僕と藤本さんのSEX・・・」
「本当に後悔してる。藤本の脳みそに手をつっこんで記憶を抜き出したいぐらい。」
「えーっそれは無理・・・」

思わず笑いながら彼を見ると、真剣な面持ちで僕を見つめている。

「やっと笑った。」
「えっ?」
「お前に悲しそうな顔させたくない。この前もそう言ったろ?」
「う・・・ん・・」
「出会の形式とか過去とか年齢差とか、お前いろいろ気にしてるみたいだけど、俺は今のお前を愛してる。お前にも今の俺を愛して欲しい。」
「うん・・・・今の青山さんを・・・愛してる!・・・キスしていい?」

僕を抱きしめ、肩をポンポンと叩いた。僕の頬にキスをする。僕も彼の頬にキスをする。彼の体に覆いかぶさり、本格的なキスをする。僕の体を引いて彼自身の上に重ね、僕の乳首を弄る。唇は密着し、舌が強く絡まりあう。ふと、彼が唇を離し、真面目な顔で話し出した。

「ユウキ。」
「んっ・・・なに?」
「あいつらのことも認めてやれよ。本気で愛し合ってるんだから。」
「うん。ごめんね、汚いなんて言って。」
「あいつらの前で言わなきゃいいさ。」

藤本さんたちは3年も一緒に暮らしているって言ってたっけ。本当に愛し合ってなければ3年も一緒に住めない。僕だって未成年じゃなければあの家を出ている。愛情のない相手とは暮らせない。愛情があるからこそ一緒に生活できるんだ。僕は彼の腕枕に体を預けた。

「僕ね、京介さんみたいな人になりたいって思ったんだ。」
「京介みたいに?」
「あんな風にさわやかな大人の男性になりたいと思ったんだ。」
「なぜ?」
「韓国ドラマのあの俳優でもいいんだけど。こう男らしくて、さわやかで、笑顔も涼しげな。」
「だから、なぜ?」
「あんな風になれば、青山さんと釣り合うって思ったから。」
「だからさっき・・・」
「うん、聞いて。それはね、違うってわかった。背伸びしてもしょうがないし。でね、さわやかだと思い込んでた人のそうでじゃない部分を見ちゃって、ショックだった。」
「そうか。」
「僕もあんな姿を青山さんに見られてると思ったらショックだった。見られたくないと思った。でも・・」
「なに?」
「でもね、僕も青山さんの乱れた姿なら見たいと思う!」
「俺っ?」
「だから・・・ネェ・・・いい?」

僕は彼の太股を撫でながら彼の顔を覗き込んだ。

「俺はっ・・・その・・なんだ・・・どちらかというと抱かれるより抱くほうが・・・」
「プッ・・・クスクス・・・ウソだよ。」
「・・・・」
「僕も抱かれるほうがいい。」
「お前っ。」
「ごめん、怒らないでよぉ。あっ・・・くすぐるのなし!・・やっ・・はは・・あははははっ・・」
「許さない!ユウキ。手どかせ!」



「なんだ、エッチしないのか。」
「もう戻ろうよ。気づかれるって。」
「いや待て、もうちょっとしたら・・・」
「戻るよ。ユウキくんがかわいそうじゃないか。見られてるって知ったらまたショック受けるよ。」
「ずいぶん気に入ってるみたいだな。」
「ユウキくん?可愛いからね。あんな子なら青山さんも夢中になるよね。」
「今回は4人で出来ると思ったんだがなぁ。青山があれじゃなぁ。」
「ほら、戻るよ。ドア閉めて。」

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